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広島地方裁判所 昭和43年(行ウ)3号 判決

原告

広島勤労者演劇協議会

原告

呉勤労者演劇協議会

右原告ら代理人

原田香留夫

ほか三名

被告

広島西税務署長

鳥谷英一

右指定代理人

小川英長

ほか四名

被告

呉税務署長

西川芳雄

右指定代理人

小川英長

ほか四名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告広島西税務署長が原告広島勤労者演劇協議会に対し、別表1ないし5記載のとおりなした入場税、無申告加算税の賦課処分を取消す。被告呉税務署長が原告呉勤労者演劇協議会に対し、同表6記載のとおりなした入場税、無申告加算税の賦課処分を取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、被告広島西税務署長は原告広島勤労者演劇協議会に対し、また被告呉税務署長は原告呉勤労者演劇協議会に対し、原告らが別表開催年月日欄記載の各日時において、開催した各例会活動を入場税法第二条第一項の「催物」、原告らを同条第二項の「主催者」、原告らの会員を「入場者」、会員の醵出した会費を同条第三項の「入場料金」とみなし、同表記載のとおり入場税、無申告加算税を賦課した。

原告らは右賦課処分に対し、被告らに対し、同表記載のとおり異議の申立をなしたが、被告らは同表記載のとおり右異議の申立を棄却する旨の決定をなしたので、原告らは同表記載のとおり右棄却決定につき、広島国税局長に対し、審査請求をなしたが、同国税局長は同表記載のとおり右審査請求を棄却する旨の裁決をなした。

二、しかしながら、被告らの原告らに対する右賦課処分は次の理由により違法であるから取消を免れない。

(一)  原告らは組合契約による個人の集合体であり、入場税法に、かかる集合体を納税義務者とする規定がないから、原告らは右納税義務を負わない。

かりに、原告らが権利能力なき社団であるにしても、人格なき社団は、実体法上権利義務能力を有しないからもともと租税義務能力を有しないのみならず、入場税法は所得税法、法人税法と異なり、権利能力なき社団を納税義務者とする明文の規定を有しないから、同法第三条における「経営者」または「主催者」は自然人または法人に限られるべきもので、法人格を有しない原告らに入場税法上の納税義務はない。

(二)  本件入場税賦課処分の対象となつた原告らの「例会」は同法第二条第一項の「催物」に該当しないから、原告らは同条第二項の「主催者」ではない。

「催物」とは、入場税法第二条第一項の「見せる」という文言自体からも明らかな如く、「見せる側」と「見る側」との対立関係を前提としているところ、原告らの例会は会員各自が協同して映画会、演劇会等の企画をなし、原告らの会員のみがこれを鑑賞するものであて、第三者に見せるものではないのであるから、「見せる側」と「見る側」の対立関係を前提とする催物には該当しないものである。

(三)  本件入場税賦課処分の対象となつた「会費」は、入場税法第二条第三項の「入場料金」に該当しない。

原告らの会員は会員資格の取得及びその存続の条件として、会費を納入するが、右は会員の総有財産として、例会及びサークル活動等原告らが活動体として、その存在を維持していくために必要な諸費用に当てられ、残額があれば会員に還元されるものであり、会員は例会に参加すると否とにかかわらず、会費を醵出する義務を負つているのであるから、右会費は例会入場の対価たる性質を有しないものである。

被告ら指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一項の事実は認める。ただし、原告広島勤労者演劇協議会に対する昭和四二年六月七日付各入場税賦課処分については、被告広島西税務署長は一〇〇円未満の端数につき、減額再更正をしている。

二、被告らは原告らが別表記載のとおり開催した演劇会(いわゆる例会)は、入場税法上の「催物」にあたり、その「主催者」は原告らであり、原告らが同表記載の入場者から受領した同表記載の会費は「入場料金」にほかならぬと認めたので被告らは原告らに対し、同表記載のとおり、入場税を賦課しかつ原告らが右国税につき無申告であつたので、国税通則法に基づき、同表記載のとおり無申告加算税を賦課したものである。

三、原告らは原告らの実体が組合契約による個人の集合体であつて、人格を有しないものであるから、入場税法にいう「主催者」には該当しない旨主張するが、原告らは会員を構成員とする団体として、一定の根本組織(規約)が定められ、最高議決機関として代表者会議、執行機関として、幹事会または運営委員会がおかれ、右執行機関の統括下に事務局がおかれ、代表幹事または運営委員長が原告らを代表して、演劇家との出演契約、会場の賃貸借契約等を締結し、その構成員たる各会員の増減変動とは無関係に団体としての統一性を持続しているものであるから、原告らはいわゆる人格なき社団というべきである。そして、人格なき社団が入場税の納税義務者たりうることは、入場税法第三条がその納税義務者を「経営者」または「主催者」と規定し、これらの者が同法第二条第三項にいう入場料金を同条第一項の興業場等への入場者から領収することをもつてその課税要件としていることからして法人税法等直接税法におけるように納税義務者の人格性の明記を欠くからといつて人格なき社団を納税義務者から除外する趣旨でなく、要するに入場税法は、間接税の一種として、その興行場等への入場について、その娯楽的消費支出に担税力があると認め、その入場料金たる経済的負担に対して課せられるものであり、納税者は入場料金を領収する者として、規制されているのであるから、右納税義務者のうち主催者についてみれば、その法人格の存否にかかわらず、社会生活上の統一的活動体として、その名において当該催物を行なうものをもつて納税義務者と定めているものと解すべきであり、右の理は同法第八条の免税興行に関し、同表別表主催欄第四、社会教育法第一〇条によると明文で、被免税者として人格なき社団をその対象として規定し、さらに同表第一に規定する学生等またはは卒業生の団体は通常法人格を有しないものであるから、その団体の人格性を問題としないで被免税者としていることからしても自明のことである。

原告らは原告らの催す例会が入場税法にいう「催物」にあたらない旨主張する。しかし、原告らは前記のとおり人格なき社団として、個々の会員とは独立に、その名と責任において、演劇家との出演契約を締結し、その広告宣伝等のための印刷物等の請負契約、会場の賃貸借契約を締結し、例会ごとの会費を納入した会員に座席指定票を交付し、これにより入場を許可して演劇を観賞させているものであるが、他方原告らの会員の入会脱会は自由で、入会についてはなんらの資格も要件とされず、なにびとでも所定の入会金と会費さえ納入すれば会員となり、例会に入場観賞することができ、脱会についても、当月分の催物を好まないことなどから、会費を納めないと会員たる資格を失い、当該会場へ入場することができなくなるのであつて、要するに、原告らは例会の上演に必要な一切の活動を行なうものであり、原告らの会員は右例会について会費を納入し、座席指定券の交付を受けて会場へ入場し、上演される演劇を観賞するに過ぎないものであるから、例会の主催者は原告らであり、会員は観客たるの実質を有するものというべきである。

また、会員から醵出された会費が入場税法第二条第三項の「入場料金」にあたることについては、会員は例会ごとに当該会費を支払うことによつてのみ原告らの主催する興行場へ入場することができるのであるから、当該会費が入場に対する対価性を有することは明らかである。

〈証拠〉(省略)

理由

一請求原因第一項の事実については当事者間に争いがない。ただし、弁論の全趣旨によれば、被告広島西税務署長は原告広島勤労者演劇協議会に対し、昭和四二年六月七日付で賦課した各入場税額中一〇〇円未満の端数を国税通則法第九一条第一項、同附則第二条第二項を適用して、減額再更正していることが認められる。

二そこで、被告らの原告らに対する右賦課処分の当否につき検討する。

(一)  〈証拠〉によれば、原告らはいずれもよい演劇を安く鑑賞し、教養を高め、地方文化の向上に益することを目的として設立された団体であつて、法人格を有しないものであるところ、その機関として、総会、代表者会議、幹事会または運営委員会、代表幹事または運営委員長、会計監査役が置かれ、代表の方法、総会の運営、財産の管理等にわたつて規約による定めがなされ、原告らの前記目的を達成するため、右議決機関の議決に基づき、原告らの代表者らが事務局長らの補佐により、原告らの名と責任において、財産を管理し、演劇家との出演契約、例会(演劇会)会場の賃貸借契約を締結する等業務の遂行にあたるが、原告らの個々の会員は右行為の法効果の帰属主体となつていないことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右によれば、原告らは人格なき社団と認めるのを相当とする。

(二)  ところで、原告らは、人格なき社団は租税義務能力者たりえない旨主張する。人格なき社団も、社会現象として社会生活上の一単位として実在し、社団法人に準じた地位を有するものとして活動しているもので、かかる実在は本来的に権利義務能力を賦与される資格を欠くと解すべき理はなく、右能力を賦与するか否かは社会政策とこれを実現すべき立法により決せられるものと解すべきである。したがつて人格なき社団に一般的租税義務能力がないとの原告らの主張は採用できない。そこで原告らが入場税法上納税義務者であるか否かにつき判断する。入場税法第三条は「興行場等の経営者または主催者は、興行場等への入場者から領収する入場料金について、入場税を納める義務がある。」と規定し、同法第二条第二項において、「この法律において、「主催者」とは、臨時に興行場等を設け、または興行場等をその経営者もしくは所有者から借受けて、催物を主催する者をいう。」と規定している。

そこで、人格なき社団が催物を主催した場合、右主催者といいうるか否かであるが、入場税法が、人格なき社団を納税義務者とする旨明記していないことをもつてこれを否定すべきでなく、同法第八条第一項が「別表の上欄に掲げる者が主催する催物が左の各号に掲げる条件に該当する場合において、第三項の規定による承認を受けたときは、当該催物が行なわれる場所への入場については、入場税を免除する。」と規定し、同法別表上欄において、「児童、生徒、学生、または卒業生の団体」、「学校の後援団体」、「社会教育法第一〇条の社会教育関係団体」(社会教育法第一〇条は「この法律で「社会教育関係団体」とは法人であると否とを問わず、公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう。」と規定している。)等を掲げていることからすると、入場税法は個人はもとより社団についても法人格の存否にかかわらず、それが臨時に興行場等を設け、または興行場等をその経営者もしくは所有者から借受けて催物を主催し、興行場等への入場者から入場料金を領収する場合には、それを「経営者」または「主催者」として入場税の納税義務者と定め、一定の条件と承認がある場合に限つて、入場税を免除しているものと解するを相当とし、右は課税公平の見地からしても是認しうるところであり、したがつて、人格なき社団は入場税の納税義務を負わないとの原告らの主張は採用しがたい。

なお、入場税法第二三条、第二八条は人格なき社団を納税申告義務の承認、両罰規定の対象から除外しているけれども、右は納税義務者を定めたものでなく、徴税の実効を期するための規定とみるべきで右各規定から納税義務の存否を推論すべきかぎりでない。

(三)  原告らは原告らの例会は入場税法第二条第一項の「催物」にあたらない旨主張する。入場税法第二条第一項は「この法律において「催物」とは、前条各号に掲げる場所において、映画、演劇、演芸、音楽、スポーツ、見せ物、競馬、競輪、その他政令で定めるもので、多数人に見せまたは聞かせるものをいう。」と規定している。

そこで、原告らの例会が「催物」に該当するか否かであるが、原告らの例会出席者が原則として、原告らの会員に限られていることは原告ら主張のとおりであるけれども、原告らは前記のとおり人格なき社団として、個々の会員とは独立に、原告らの名と責任において、例会を開催し、会員に演劇を観賞する機会を与えているところ前記甲第二号証、乙第二号証の二、乙第七号証の一、三、原告広島勤労者演劇協議会代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らへの入会は自由で、所定の入会金と会費さえ納入すれば誰れでもいつでも三人以上のサークルないしは個人で入会することができ、脱会についても、会費を納入しないことによつていつでも脱会しうるものであり、したがつて、例会当日当該例会の上演物を観賞するためにのみ所定の入会金と会費を納入して会員となり、座席指定票の交付を受けて例会会場へ入場している者がいる反面、当該上演物の観賞を希望しない会員はあらかじめ、当該会費を納入しないことによつて、脱会していること、例会会場への入場は、原告らの会員が原則として、二箇月分三〇〇円またはは四〇〇円の会費を納入するとそれと引換に座席指定票の交付を受け、それを例会会場入口で呈示すると入場が許されることとされているが、会員であつても、座席指定票の呈示がなければ、原則として、入場が許されないこと、右座席指定票の譲渡は表向きは許さないこととしているが事実上これを黙認している実情にあることが認められ、右事実によれば、右座席指定票の交付は一般興行における入場券、前売券の発売と実態を異にするものでないというべきであるうえ、後記のとおり、原告らの例会入場人員は原告広島勤労者演劇協議会の例会において七九八名ないし一、二一四名、原告呉勤労者演劇協議会の例会において、六六二名ないし六八三名の多数にのぼることが認められることからすると、本件入場税賦課処分の対象となつた原告ら主催の例会は、原告らが興行場において、多数人に見せるために主催したもので、入場税法第二条第一項の「催物」に該当すると認めるを相当とする。

(四)  原告らは原告らの会員が原告らに納入する会費は、入場税法第二条第三項の「入場料金」に該当しない旨主張する。入場税法第二条第三項は「この法律において、「入場料金」とは、興行場等の経営者または主催者が、いずれの名義でするかを問わず、興行場等の入場者から領収すべき入場の対価をいい、当該入場料金について課せられる入場税額に相当する金額を含まないものとする。」と規定している。

そこで、本件会費が例会入場の対価たる性質を有するか否かであるが、会費の納入が原告ら主張のとおり、会員資格の取得及びその存続の条件であり、かつ右会費の一部が例会以外の活動費用にあてられていることはうかがわれるけれども、前記のとおり、原告らの会員資格の得喪が所定の入会金及び会費の納入、不納入にのみかかつていること、右入会金及び会費さえ納入すれば、座席指定票の交付を受け、それによつてのみ入場が許されていること等要するに、原告らの主催する例会入場の実態が、一般興行におけるそれと異ならないうえ、原告らの会員から領収する会費は一律に会費名義で領収されているところ、原告らの会則によれば、原告らは例会の開催以外にも、地元の演劇活動の助成、批評会、研究会の開催、機関紙の発行、他の文化団体との交流等の活動を行なうことを掲げているが、原告らが昭和三九年当時から現に行つてきた例会以外の活動は、右のうち合評会ないしは研究会の開催、機関紙(催物案内等のパンフレット)の発行のほかはこれを認めるに足る証拠がなく、右合評会の開催、機関紙の発行費用については、入会金のほか会費からも少額部分が支出されていることはうかがえるが、右合評会の開催、機関紙の発行は例会活動を効果あらしめるためのいわば例会活動の附随的活動というべきであるから、会費の一部をもつて、右活動費用にあてたにしても、右は例会開催に附随する費用の支出と解するのを相当とし、以上によると、右会費は会員資格の取得及びその存続の条件であると同時に全体として、例会入場の対価たる性質を併有すると認めるを相当とする。

なお、入場税法第七条第一項第二号は、一定の興行場等において、一定の催物を行なう経営者等が入場料金を定めずかつ入場料金を領収しないで入場させた場合、一定の入場料金を領収したものとみなす旨規定しているが、右のとおり、原告らは入場の対価たる会費について定めをなし、かつ右会費を領収して入場させているものというべきであるから原告らの催物につき、右条項をもつて律すべきでないことは明らかである。

(五)  以上の次第で、原告らの例会は入場税法第二条第一項の「催物」に、原告らは同条第二項の「主催者」に、原告らの領収した会費は同条第三項の「入場料金」にそれぞれ該当するところ、〈証拠〉によれば、原告広島勤労者演劇協議会は別表1ないし5記載の日時において、広島市から同市所有の広島市公会堂を借受け、また原告呉勤労者演劇協議会は同表記載の日時において、呉市から同市所有の呉市民会館を借受けて、同表記載の演劇を開催し、同表記載の入場者から同表記載の入場料金(会費)を領収していることが認められる。そして、原告らが右入場料金の入場税額等につき、無申告であつたことは弁論の全趣旨に徴して明らかである。

してみれば、原告らは入場税法、国税通則法に基づき、右例会につき、同表記載の入場税額(ただし、昭和四二年六月七日付の各入場税額中一〇〇円未満の端数を除く。)及び無申告加算税額を納付すべき義務があるというべきであるから、被告らの原告らに対する本件入場税、無申告加算税賦課処分は結局正当である。

三よつて、原告らの本訴請求は失当というべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(長谷川茂治 北村恬夫 篠森真之)

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